楽しい映画を有効に活用する映画英語学習法


 

はじめに

いわゆる学習用教材は学習項目がきちんと配列され、学習はしやすいのですが、会話の内容自体におもしろみがありません。学習を続けるには意志が必要で、それらは楽しさとは遠い存在でした。しかし、映画は違います。学習者向けに手加減された英語ではなく、今、英米で使われている生の英語が飛び交っています。しかも、ストーリーの展開に心を奪われながら、しだいに英語とストーリーの両方の魔力に引きつけられていくのです。
 
かつて映画は娯楽の代名詞的存在で、見て楽しむ人はいても、英語や英会話の学習に役立てようという人は多くはありませんでした。昔から映画を英語の学習に役立てたいという発想はあったのですが、簡単にできることではなかったのです。つまり映画といえば映画館で鑑賞するもので、英語は流れてくる音声のみ。ただ手助けとなるものは字幕の日本語だけという状況では、ある程度口語英語に慣れている学習者以外にはハードルが高すぎたようです。
 
ところが現在では映画は英語学習に大いに役立つようになりました。それにはメディアの発達が大きくものをいっているのです。家庭で自由に映画を鑑賞できるようになったのはいうに及ばず、ビデオ、クローズド・キャプション、CD-ROM、二カ国語放送、DVDなどの新しいメディアは、自己ベースでの学習を可能にし、しかも繰り返し納得がいくまで映画の音声を聞くことができるようになりました。また、『スクリーンプレイ』や『シネックス』、その他の映画学習用の補助教材も多く手に入るようになりました.
 
もちろん、それらのメディアの使い方が学習の効率を左右するのはいうまでもありません。ここではあまり知られていないメディアの使い方を紹介しましょう.映画の世界と英語学習の橋渡しをしたいと思います。ここで紹介するさまざまなメディアと活用法によって、「映画英語」の世界にあなたも踏み込むことができるはずです。

 

映画の英語を解剖する

映画の英語と聞くと「生粋の英語なのだから難しいだろう」とか「単語が難しいのではないか」と敬遠する向きもあるでしょう。そこで、筆者は映画で使われている単語をコンピュータで分析してみることにしました。もちろん、単語だけで映画の英語の難しさを述べることはできませんが、映画で使われている単語の約8割が中学校で習うような基礎的な単語(約1000語)でできているとしたら、映画の英語は意外に身近に感じられるのではないでしょうか。
下のグラフを見てください。これはいくつかの映画のセリフ(クローズド・キャプションによる)に含まれる単語を3つのレベルに分類し、その割合を示したものです。
 
同じ方法でCNNニュースを調べてみると、中学相当単語は70パーセント前後になります。また、書き言葉としての英語ではありますが、The Japan Timesの記事になると6割くらいです。このことから、映画英語の単語がいかに基礎的な単語を中心に構成されているかがおわかりいただけると思います。

 

教科書では学べない英語を映画で学ぶ

使われている単語がやさしいということはわかりました。しかし、映画の英語は生粋で、どことなく学校の英語と違って聞こえるのはなぜでしょうか。
 
まず、基本的な単語を徹底的に使い回す、ということが挙げられます。特に動詞については基本となる少数の動詞を、状況によってさまざまな意味で使っているのが待徴的です。また、基本的な動詞を前置詞や副詞と組み合わせて、さらに意味の幅を広げています。たとえば、「おとうさんの風邪の具合はどう?」と聞かれて「今はいいよ。回復したんだ」と言いたいとき、どのような英語を思い浮かべるでしょう。He's OK now. He's gotten over it.と言えばいいのですが、get over(乗り越える、回復する)がすんなり出てきたでしょうか,recovcr(回復する)という語を使うのもよいのですが、映画では簡単な単語ですませてしまうのです(映画での基本動詞の使われ方は、拙著『映画を英語で楽しむための7つ道具』[スクリーンプレイ出版]に詳しく解説してあるので、興味のある方は参考にしていただきたい。
また、教科書と映画の違いは、会話のシチュエーションの違いでもあります。映画では家庭日常生活からビジネス、裁判、犯罪現場、未来社会などわれわれの想像以上の広さを持ちます。テキストではカバーしきれない現実感のある状況での英語が展開されるのが映画英語です。
 
また、あらゆる社会階層の人々の英語を、映画を通じて聞くことができます。映画はアメリカ英語の縮図のようなものです。あらゆる種類の口語英語が集まった、会話表現の宝庫なのです。
それらの会話表現を、あたかもアメリカで生活しているような擬似的な英語環境の中で提供してくれます。いや、実際の生活体験では味わえないような場面も映画の中では可能です。その意味で、映画は現地での生活体験以上に、英語の生きた情報を私たちに提供してくれる貴重な情報源になるのです。


教科書では学べない英語を映画で学ぶ

映画を使って英語を学ぶもう1つのメリットは、話し方の社会的ルールを学ぶことができることです。英語は単に文法的に正しければそれでよいというわけではありません。文法的に正しい文であっても、社会的なルールに当てはまる話し方とそうでない話し方があります。たとえば、褒められたときに日本人はつい、謙遜のつもりで“Oh, no.”と答える場合があ!)ますが、英語社会ではこれは謙遜に受け取られないことが少なくありません。このようなルールは映画の自然な会話の中で学べるのです。


 

映画の英語を200パーセント活用する学習法

映画を使って聞く力をつける

最近では、映像メディアを楽しむための新しいハードウエアが数多く登場しています。それらの機器の中には英語学習に役に立つものも少なくありません。映画の英語を200パーセント活用して、英語学習に生かす方法を見ていくことにしましょう。
 
クローズド・キャブションを使おう
クローズド・キャプション(closed caption)とは、ビデオソフトを再生する際、専用のデコーダーを使って英語の字幕を画面に表示させるものです。デコーダーのスイッチ操作によって、英語字幕を表示させたり消したりすることができます(クローズド・キャプションはセリフを文字化したものですが、100パーセントセリフと同一というわけではありません)。最近では市販ビデオやレンタルピデオにクローズド・キャプションの入っているものが増えてきました。専用デコーダーは2〜4万円前後で市販されており、普通のビデオとテレビがあれば簡単にセットアップできます。
 
クローズド・キャブションを使った学習法
 
初級・中級者は先にクローズド・キャブションの字幕を表示させ、音声を文字で確認しながら聞くとよいでしょう。いきなり英語を聞くよりもかなり負担が少なくてすみます。英語の字幕で内容を把握したら、次は英語の字幕を消して、音声と映像だけで同じ映画を見ます。今度は文字の助けはないものの、聞きやすさが増していることに気がつくはずです。慣れてきたら字幕つきで見たあとしばらく間を空けて(数日間)、同じ映画を字幕なしで見るとよいでしょう。間を空けることで、字幕のセリフの記'億はあいまいになっていますが、音声はすんなりと理解できるようになっているはずです。
上級者は先に字幕なしで見て、聞き取りができなかった個所をクローズド・キャプションで確認するとよいでしょう。


映画を使って聞く力をつける

スクリプト本を使った学習法
映画のスクリプト本は一般の書店でも手に入るようになりました。特に、スクリーンプレイ出版のものは80種類以上が刊行され、日本語訳や語句の説明が入っているので、映画で英語を勉強するにはもってこいの資料といえます〉
スクリプトを使った学習は、じつくりと英語のセリフを吟味したい人にお薦めです。好きな映画を選んで、隅から隅までセリフを精読するのもよいでしょう。映画のひとつひとつのセリフの奥の深さに驚くに違いありません。日本語字幕では気がつかなかったセリフの裏にある、隠れた意味を理解することができるでしょう。
 
バーチャル・シアターを使った学習法
「バーチャル・シアター(Virtual Theater)」とは、映画英語を学ぶためのCD-ROM教材です(p203参照)。パソコン(Windows95搭載)にCD-ROMをセットアップすると右上に映画が、下には英語または日本語のセリフが出てきます。また、知らない語句にマウスのカーソルを合わせると、その単語の意味が出てくるしくみになっています。
「バーチャル・シアター」を使うとかなり柔軟な練習ができます。たとえば、英語の字幕を表示したり消したりできるので、先に紹介したクローズド・キャブションと同じ練習ができます。また、日本語訳も簡単に表示できるので、必要なときに意味の確認ができます。さらに、セリフを設定すれば、瞬時にしかも簡単に反復再生ができます。これはビデオでいちいち巻き戻すよりも、ずっと軽快です。覚えたいセリフが快適に練習できます。
 
画質は普通のビデオより劣りますが、パソコンならではの操作性で学習を効率よく進めることができます。

話す力をつける

シネックスを使った学習法
シネックスは画面上で英語の字幕が読める、いわゆるオープン・キャプションのピデオソフトのことです。クローズド・キャブションと異なに英語字幕つきの映画鑑賞が可能となります。シネックスは画面にリアルタイムで字幕が表示されるので、その特徴を生かした英会話学習が可能です。ここでは「アフレコ学習」を紹介しましょう。
アフレコ学習とは、映画の音声を消し、字幕を見な力ら映像に合わせてセリフを言う練習のことです。俳優の話すスピードに合わせて言うのは慣れないと難しいものです。しかし、何度も練習をすると、意外にできるようになるものなのです。家族や友人といっしょにやるとおもしろみが増すでしょう。また、自分たちの声をテープレコーダーに録音して、あとで聞いてみるのも楽しいし、自分の発音を客観的に見なすこともできます。
 
普通のビデオを使った学習法
普通のビデオを使った学習法のうち、英語のスピーキングカをつける方法を紹介しましょう。まず、音声を消して映像だけを流します。映像を見ているあなたは画面上で起きていることがらを英語で表現するのです。これは2人で行うとさらに楽しさが増します。まず、1人が画面を見て、もう1人は後ろを向きます。そこで映像を見ている人が説明をしますが、後ろを向いている人もどんどん英語で質問をしてもよいでしょう。この練習は普通のビデオでも可能ですが、DVDがあるとさらに快適に練習ができます。

話し方の社会的ルールを学ぶ

二カ国語放送を使った学習法
話し方の社会的ルールを学ぶには二カ国語放送が便利です。まず日本語吹き替えで映画のあるシーンを流します。次にその部分を英語に変えて、もう一度聞いてみます。すると英語のセリフと日本語の吹き替えでは、内容的に隔たりが感じられることがあります。特にあいさつや決まり文句などでは、英語を日本語に直訳できない場合があり、その場合は状況に合う日本語の言い回しで代用していることがあります。これは、単に英語の語法上 の問題ではなく、社会的に通用する自然な言い回しを選んだ結果でしょう。英語と日本語とのギャップをどのように埋めているかを二カ国語放送で確かめるのも話し方の社会的ルールを学ぶうえで役に立ちます。


 
「楽しい映画を有効に活用する映画英語学習法」(吉成雄一郎)『英語をモノにするためのカタログ'98』より