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リスニングのコツ


リスニング力をつけるストラテジー 〜聞き取れるとはどういうことか?


 まず、リスニング力をつける方法を考える前に、聞き取れるとはどうことなのかを考えてみよう。

 読者の大多数の人にとって、母語は日本語であろう。その日本語でも、聞き取りがうまくできないことがあることに気がついているだろうか。

 たとえば初めての土地を旅行するとき、電車のアナウンスの駅名がうまく聞き取れず、困った経験はないだろうか。あるいは電話で、初めての相手の名前がきちんと聞き取れないという経験は誰しもあるのではないかと思う。駅名にしろ、人の名前にしろ、一度頭の中に入ってしまえば、多少雑音があろうと、電話が遠かろうと聞き取れてしまう。この聞き取りの仕組みはどうなっているのか。

 一般に言葉を聞いて理解する時には、2つのプロセスが働いていると考えられている。一つはトップダウンプロセスであり、もう一つはボトムアッププロセスである。トップダウンプロセスは、内容をまず大まかにとらえようとするプロセスである。その際、音が脱落していることや雑音など細かい点を気にせず、全体から理解しようする働きである。背景知識やその場の状況・雰囲気などを含めて総合的に「いったい何を言おうとしているのか」という概念をつかもうとするものである。一方、ボトムアッププロセスは、音、単語、文といった細かいデータを頭の中で結びつけて処理する動き、つまり部分からの理解から徐々に全体へと理解をしていくプロセスである。この2つの動きがお互い相まって言葉の理解につながると言われている。電車のアナウンスや電話で、駅名や人の名前がうまく聞き取れないのは、その「音」だけを頼りに理解しようとする、ボトムアップ処理をしていたのである。しかし、一度駅名を知ったり、名前がわかると、今度は多少の不明瞭な音であっても聞き取れるという次第である。

 英語の学習戦略に話を戻そう。英語の聞き取りの力をつけるには、ボトムアッププロセスとトップダウンプロセスの両方面からトレーニングすることが有効であるといえる。では、それぞれのトレーニングはどうすればよいかを考えてみる。

ボトムアップトレーニング  〜「あっそうか!」という体験の積み重ねの大切さ


 皆さんは、スクリプトを見ないでCNNの音声を聞いて、何度聞いても聞き取れない箇所に遭遇したことがあるだろう。どうしてもわからないのでスクリプトを見ると、「何だそういっていたのか!」と実に簡単な英語であることに気がつく。たとえば、「ワジュセエ」としか聞こえなかった英語がスクリプトを見るとWhat did you say?と実に簡単な英語であったことに気づく。この瞬間こそ、「音」と「文字」が頭の中で結びついた瞬間なのである。その体験を繰り返していくことで、自然に英語の音声でよく言われる「脱落」、「連結」。「同化」という音の変化が体得できるわけである。英語音声学の本を読んで、音の変化の知識を得ても、実際に「あっそうか」という体験がなければ身に付かないものである。

 では、どのようにすればリスニング学習において「あっそうか」体験ができるか。それは至って簡単である。スクリプトと生の音声があればよい。その意味で、本誌CNN English Expressはもってこいだ。

 まず、スクリプトを見ないで、CNNの音声だけを聞いて、できるだけ理解しようと努めてみる。聞き取れない箇所があたったら、その部分の前後を何度も聞き返す。どうしても聞き取れなかったら、スクリプトを見る。そのときに「なんだ、そう言っていたのか」と思ったら、トレーニングは成功したのである。もし、文字を見ても何を言っているのかわからないのであれば、その題材はリスニングは少々難しすぎだ。聞いてほぼ8割程度理解できるものを選ぶとよいだろう。

 よく英語をBGMのように聞けばリスニング力がつくと誤解している人がいる。英語圏に住んでいて、生活環境がすべて英語であれば話は別だが、短い時間に確実にリスニング力をつけるには、生の音声に加えてスクリプトが不可欠なのである。

トップダウントレーニング


 次にトップダウンプロセスを刺激するトレーニング方法を紹介しよう。それは音声を聞く前に、ある程度の予備知識を入れて頭をフル回転させながら聞く方法だ。予備知識が音声の理解を助ける働きを使う。たとえば、次のような方法がある。

(1)関連する記事を読んでおく

 ニュースを聞く場合、あらかじめ新聞や関連するWebサイトなどで同じ内容の記事を読んでおく。そうすることで、聞き取りの際、内容を受け入れる準備ができる。日本語の情報でもよい。ただし、日本語で読むと、当然の事ながら英語での専門用語などは得ることができないが、英語を聞いた時に日本語の知識と英語の知識が結びつけられれば、効果は大きい。日本語ではなく、英語で書かれているもののを読んでおくと、テクニカルタームを英語で事前に学習できる。この方法の方が実は後のリスニングが容易になる。英語の記事を読む方がハードルが高いように思うかもしれないが、むしろリスニングを助ける意味では、そうではない。

(2)スクリプトそのものに目を通しておく

 中級者。初級者であれば、リスニングをする前にざっとスクリプト(EEの本文)に目を通しておいてもよい。スクリプトの内容をすべて覚える必要はない。むしろ覚えない方がよい。概要を把握するつもりで読んでおく。できれば、読んだあと、少し間を開けて、音声を聞いてみよう。英文の細かい部分は忘れて、概要のみが頭に残っている状態できければ、トップダウンのトレーニングになる。

(3)めざすは「先聞き」

 トップダウンのトレーニングの最終段階は、「先聞き」である。よく聞き取りをする時には頭の中を空にして聴くという人がいるが、そうではない。常識や場合によっては雑音、映像などを総動員して聴くべきだろう。映像がある場合は、話し手の口調,速さ,イントネーションなど文字以外の情報も聞き取りに役立っ英文を聞きながら、常にその先を予測しながら聞く。予想が間違っていたら、すぐに修正して、また予測する(しようとする)ことが大切だ。予測→修正→予測→修正→…を繰り返していく。予想が当たっていたかどうかは、あまり問題ではない。予想すること自体に意味がある。予想することで、その先の聞き取りをする体勢ができる。

 これは、たとえば会話文などが練習に適しているだろう。英検のリスニングで言えば、第1部のような問題が適当だ。会話を聞きながら、まずどのような状況か、話し手はどのような立場の人間か(親子か、友達同士か、客と店員かなど)などをすばやくキャッチし、話の流れに乗る。難しそうに聞こえるが、予測しようとして聞くと意外と会話の流れに乗れる。CNNもインタビュー記事などは「先聞き」の絶好の題材だ。

 実は先聞きはトレーニングとしてだけでなく、実際の言語活動中で自然に行われているものだ。英語が聞き取れる段階になると、先聞きを自然にしているはずなのだ。

(English Express 2009年5月号特集(拙著)より)